薬学論文は英語でどのように書くのでしょうか。
また、一般の英語論文と違う点はあるのでしょうか。
英語の薬学論文は一般的な英語論文の構成と大きな違いはないものの、どの部分を重点的に書くか、またそれぞれの章を書く時の注意点がやや異なります。
本記事では、まず英語論文の一般的な構成、英語論文の特徴などをご紹介し、その上で英語の薬学論文に特有のポイント、執筆する際の注意点を詳しくご説明していきます。
英語論文の書き方の一般的な注意点として、英語論文の構成、論理的一貫性、簡潔さ、英語の種類などの観点からご説明します。
英語論文では、慣習的に論文構成が決まっています。
研究分野により多少異なるものの、一般的な英語論文の構成は以下のようになっています。
【一般的な英語論文の構成】
Title(タイトル)
通常文ではなく名詞句で書きます。タイトルを見ただけで英語論文の内容が分かるように具体的に書きます。
Abstract(要旨)
「要旨」は英語論文全体の内容を端的に説明します。読者やジャーナル査読者は、「要旨」を読んで論文の本文を読むかどうか判断するので、ただの要約にならぬよう慎重に書きます。
Introduction(序論)
「序論」では、研究分野全体についての広範な話題から、本論文の研究課題というピンポイントな話へと、徐々に話題を絞り込んでいきます。具体的には、研究分野の背景の説明、先行研究の紹介をした後、当該論文の研究課題を明らかにします。
Method(研究方法)
研究のプロセスを詳細に記載します。
Result(研究結果)
研究から得られた結果を記載します。
Discussion(考察)
「考察」は英語論文で一番大切な部分です。前章の研究結果から導き出せることを記載します。また、本研究の限界などについても言及します。
Conclusion(結論)
研究の結果などをまとめます。本研究の限界を踏まえ、将来の研究課題を示唆することもあります。
References(参考文献)
研究で使った参考文献を漏れなく記載します。
このように、英語論文は「序論」から「結論」まで1つのお話のように書く構成になっています。
論文構成が決まっていると、読者にとってどこに何が書かれているか分かり、論文同士の比較もしやすくなります。
英語論文は「論理的一貫性」が大事と言われています。
論理的一貫性は、上記の論文構成にも表れているように論文全体における一貫性も大切ですし、段落と段落、文と文の一貫性も求められます。
英語論文は「パラグラフライティング」の技法を用いて、「1トピック1パラグラフ(段落)」で書くこととされています。
つまり、1段落に1つの話題(トピック)だけを入れ、段落の要旨を表す「トピックセンテンス」は段落の最初に書かれます。その段落の残りの文は、トピックをサポートする根拠や具体例を示します。
段落と段落、文と文は、論理的なつながりを示すために「つなぎ言葉」と言われる副詞句を使って書きます。
たとえば、”However”(しかしながら), “Therefore”(それゆえ), “Also”(また)、”First/Second/Last”などの副詞(句)などが「つなぎ言葉」の例として挙げられます。
英語論文の最も重要な目的は研究結果を読者に正しく伝えることであり、英語論文は明瞭で簡潔な英語で書くのが良いとされています。
受動態より能動態を選んだ方が、意味が分かりやすく簡潔になります。
It was found that … → We found that …
(我々は…を発見しました。)
名詞より動詞を選んだ方が、語数が少なくなります。
The increase of A was dramatic. → A increased dramatically.
(Aは急激に増加しました。)
同じ意味を表す語句であれば、より簡潔な語句を選びましょう。
In addition → Additionally / Also
(さらに)
英語論文では、会話文やカジュアルな英文とは異なるフォーマルな英語、すなわち「アカデミックイングリッシュ」で書きます。
使われる単語の種類や構文などが会話文などとは異なり、また英語論文に共通してよく使われる表現もあります。
同じ研究分野の英語論文を数多く読んで、フレーズや表現に慣れておくと良いでしょう。
アカデミックイングリッシュでは、以下のようなグラフを描写する表現も良く使われます。
例)X has been decreasing for 5 years in a row.
(Xは5年連続で減少している。)
一般的な英語論文と比べて、薬学(pharmacology, pharmaceutics)の英語論文にはどのような特徴があるのでしょうか。
薬学と言っても提出先機関やジャーナルによっても英語論文の書き方の慣習が異なります。
投稿予定のジャーナルが決まっている場合は、投稿規定を確認して先行研究を参考にしましょう。
一般的に薬学の英語論文は、
という特徴があります。これらの特徴を踏まえて、どのような論文の書き方が望ましいか以下でご説明します。
薬学論文は臨床研究や、ある薬の特定の病気に対する効果についての実験など、高度に専門的かつ限定された研究範囲を対象とする英語論文が多いのが特徴です。
このため、研究課題に関連する内容のみに絞って論文を書くようにしましょう。
研究分野の背景を説明する場合も、あまり広げ過ぎる必要はありません。
逆にテーマに直接関係ない内容を入れると論文の焦点が曖昧になり読者を混乱させる原因にもなってしまいます。
薬学論文は研究内容の性質上、専門用語や略語がたくさん登場します。
辞書を活用したり、同じ研究分野の先行研究を参考にしたりして正しい英語表記を心がけることが大切です。
また、ジャーナルの投稿規定に使用する辞書や表記法などに指定がある場合もあるので、確認しておきましょう。
薬学の専門用語の英訳は、医学・薬学専門辞書やオンライン辞書に複数当たって最も一般的な英訳を選びましょう。
この際、1つの辞書だけに頼らず複数の辞書で調べた方が良いでしょう。
また、薬学は専門性が高く進化の早い分野であり、新しい用語も日々登場します。
用語が辞書に載っていないこともあるため、同じ分野の既存文献に当たることも欠かせません。
薬学では、薬の原料などに略語を使うことが多いです。
たとえば、「抗生物質」は英語で”antibiotics”ですが、使われている略語は”ATBs”、”ABx”、”AB”など様々です。
ジャーナルの投稿規定でどの略語を使うか決められている場合はそれに従い、指定がない場合は先行研究を参考にしましょう。
また、「要旨」では略語を使わずフルで書く、「序論」以降ではその用語を最初に使う時だけフルで書き、2回目以降は略語を使うなどの慣習があり、投稿規定で細かく定められていることもあります。
なお、薬学で使う専門用語や略語はワードソフトなどの「自動修正機能」では正しく修正されない可能性があります。
よく使う用語は単語登録する、または自動修正機能が働かないように設定する、などして表記の誤りを防ぎましょう。
薬学論文では、薬の量などを数字で書くことが多くなります。
数字の表記法についてはジャーナルの投稿規定を確認し、以下の点に気を付けましょう。
【数字の表記で注意すべきこと】
薬学論文を英語で執筆する際の論文構成と書き方、間違えやすい点について以下で詳しくご説明します。
英語の科学論文は一般的に「IMPRAD(イムラッド)フォーマット」(Introduction, Methods, Results, Discussionの順で書く方法)で書くこととされています。
英語の薬学論文においても、「実験研究」の論文であれ「臨床研究」であれ、一般的な英語の科学論文の構成と基本的には同じ構成になります。
論文構成の各章における薬学の英語論文の書き方として、注意すべき点を以下で詳しく見ていきましょう。
タイトルは文で書かずに名詞句にし、簡潔なものにします。10 words以内が目安です。
例)The Effects of the medicine A on …
例のように「名詞 + 前置詞 + 名詞」の形で始まる形が多いです。
薬学論文のタイトルはタイトルを見ただけで論文内容がすぐにイメージでき、検索されやすいように重要なキーワードを含めます。
たとえば、”Research on the …”などの一般的な言葉で始めるより、“Effects of A on B”など研究内容に具体的に触れるタイトルにした方が多くの人に見てもらいやすいでしょう。
「要旨」は研究の目的、研究方法、研究結果などを簡潔にまとめます。
英語論文の構成の最初に位置しますが、論文を要約した内容なので、最後に書くのが一般的です。
ジャーナルの査読者や読者はまず要旨を見て英語論文の本文を読むか決めるので、当該研究の重要性が分かるように研究の成果である結果を含めて書きます。
英語論文が読者により興味を持ってもらいやすいように、能動態を用いて簡潔に書き、キーワードを含めたり要旨で使われる定型表現を使ったりします。
【要旨で使われる定型表現の例】
In order to clarify …
(…を解明するために)
We used X to examine Y
(Yを検証するためにXを使用した)
We found that …
(我々は…を発見した)
We concluded that …
(我々は…と結論付けた)
英語の薬学論文の「序論」では主に、
について簡潔に述べます。
英語の薬学論文では、研究の重要性を述べるための研究分野の背景知識は当該研究に関連のあるものにとどめ、あまり一般的なものまで広げ過ぎないようにします。
また、研究の目的はこれまで十分に研究されていない部分や、既存研究から生じた疑問点に基づくものとすることが一般的です。
In order to clarify the mechanism by which …
(…のメカニズムを明らかにするため)
英語の薬学論文における「研究方法」の章の名前は、”Materials and Methods”(実験材料と研究方法)とすることもあります。
英語の薬学論文の「研究方法」では、以下の内容を記載します。
薬名を記載する場合、一般的にジェネリック医薬品の名前を用います。
もし特許権のある医薬品ブランドが使用された場合は、括弧書きでそのブランド名を書きます。
なお、「研究方法」では”a little, some, hot/cold”など曖昧な表現を避け、他の研究者が再現できるように「何グラム、何度、何分」など具体的な数字で表します。
「研究方法」で述べた実験等からどんな結果が得られたか客観的に書き、統計分析を行った場合は統計結果も明記します。
「研究結果」では図表などを用いて分かりやすくまとめます。
ただし、本文の理解を助けるための図表なので、図表の説明を長々と本文に書くのは避けましょう。
「研究方法」や「研究結果」は既に行われた実験等について記載する章なので、動詞の時制は過去形で記載することが多いです。
例)Five of 200 participants had the adverse effects …
(200人の参加者のうち5人に副反応が見られた)
なお、「研究結果」では研究の結果得られた事実だけを書き、考察内容は次の章の「考察」に書きます。
「考察」は薬学論文で最も重要な部分です。
研究結果をただまとめるのではなく、結果から導き出せることとその重要性を記載し、さらに本研究の限界についても触れます。
英語の薬学論文では、「結論」の章を独立して設けるか、または「考察」の最後に書きます。
研究結果の重要性と研究の限界を簡潔に述べ、必要に応じて将来さらに研究することが望まれる課題についても触れます。
例)In conclusion …
(結論として…)
例)It is recommended that …
(…を推奨します)
使用した参考文献をリスト化してすべて記載します。
参考文献の記載項目の内、「著者名、文献名、掲載雑誌、出版年」は通常必須の項目。
「参考文献」の章や参考文献の本文への記載方法は、投稿規定に指定されていることがあるので確認が必要です。
研究に参考にした文献は、EndNoteなどの文献管理ソフトを活用してその都度正確に記録しておきましょう。
使った略語の全リストを掲載します。
特に薬学論文では略語が多く使われるので、漏れがないように本文を書いている時から記録しておくようにしましょう。
薬学論文を英語で書く際、以下の点が間違えやすいので気を付けましょう。
× 参考文献は多ければ多いほど良い → 〇 研究に関連する必要十分な文献を記載
トップジャーナルに掲載されていたり、数多く引用されていたりするようなメジャーな論文は外さないように気を付けましょう。
×「研究方法」の章は形式的なものなのでざっくり書けばよい → 〇 他の研究者が研究を再現できるように詳細に書く
研究のすべてのプロセスを明快に記述するようにしましょう。
×「受動態」を多用する → 〇「能動態」を用いて簡潔に書く
英語の科学論文では、研究者でなく研究対象に焦点を当てる観点から、第一人称の”We”を使わず「受動態」が好んで使われていました。
ただ、昨今、特に米国では、簡潔に分かりやすく書く観点から「能動態」の方が好まれるようになりました。
例)The material X was heated for 10 minutes. → We heated the material X for 10 minutes.
(材料Xを10分熱した。)
本記事では、薬学の英語論文の特徴や書き方をご説明してきました。
英語の薬学論文の基本を押さえた上で、自分の研究分野の出版された論文を数多く読み、英語表現や英文スタイルを学ぶことが大切です。
また、英語論文の完成度を上げるために英文添削サービスを利用するのがお勧めです。
英文添削サービスに依頼すると、
などの観点からチェックしてもらえます。
なお、薬学に詳しい校正者がいない英文添削サービス会社に依頼した場合、英語一般のエラーについては見てもらえますが、薬学ならではの内容に踏み込んだ誤りについては見てもらえません。
英文添削サービス会社を選ぶ時は、薬学に詳しい校正者がいる会社を選び、薬学関連のジャーナルにアクセプトされやすい英文になっているかという点からも添削してもらいましょう。
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