企業や店舗のウェブサイト、SNSなどに英語を書く機会が増えてきています。
英文を書く時に機械翻訳の利用を検討している方もいるのではないでしょうか。
機械翻訳はこれまで、不自然な訳がSNS等で話題になることもありましたが、過去数年で翻訳の精度が大幅に向上しました。
ここでは、機械翻訳のメリットと注意点、論文の英訳を翻訳会社に依頼する時のデメリット、翻訳ではなく英文添削を受ける手段もあることをご説明します。
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自分で英文を書くのはハードルが高いと感じる方は多いのではないのでしょうか。
実際、日本のこれまでの英語教育においては、ライティングの指導が圧倒的に少ないと言われてきました。
英語試験に向けて英作文の練習をしたとしても、試験用に考えられた英作文の問題を解くことと、自分の伝えたいことを英語で表現することの間には、大きなギャップがあります。
辞書を引きながらなんとか英文を書いたとしても、それが正しい英語なのか、自然な表現になっているのか、自分で判断するのはなかなか難しいでしょう。
そこで、外部の力を頼って日本語を英語に翻訳するにはどのような手段があるでしょうか。
日本語を英語に翻訳してもらう場合、機械翻訳を利用する方法と翻訳会社に依頼する方法があります。
機械翻訳には、無料で利用できるものと有料のものがあります。それぞれ見ていきましょう。
気軽に利用できる無料の機械翻訳は、既に多くの人が活用していることでしょう。
最も広く知られている無料の機械翻訳「Google翻訳」は、2006年からサービス提供が始まりました。
ウェブサイトでもアプリでも利用でき、文字入力だけでなく音声入力や画像入力もできるのが特徴です。
また、2017年に公開された「DeepL」も無料で利用できる機械翻訳です。
DeepLは、以前からオンライン辞書「Linguee」を運営しているドイツのDeepL社が開発しました。
DeepLはGoogle翻訳と違って、アメリカ英語とイギリス英語を選べる一方で、Google翻訳より対応言語の数が少なくアプリはありません。
両者の翻訳の質はどう違うのでしょうか。
日本のビジネスで使われる決まり文句を機械翻訳した訳文は、Google翻訳とDeepLで以下のようになりました。
いずれも英語に直訳しにくいと言われる例文です。
【日本のビジネス慣用表現の英訳】
日本のビジネス慣用表現 | Google翻訳 | DeepL |
いつもお世話になっております。 | Always I am indebted. | Thank you for all your help. |
よろしくお願いいたします。 | Thank you. | Thank you for your cooperation. |
お疲れさまでした。 | Thank you for your hard work. | Thank you for your hard work. |
Google翻訳とDeepLの英訳を比べると、「お疲れさまでした。」の英訳はどちらも”Thank you for your hard work.” と同じでしたが、他の2つの英訳を比べると、DeepLの方がビジネスで使われる自然な表現となっています。
Google翻訳は、「いつもお世話になっております。」の英訳”Always I am indebted.”が不自然な表現ですし、「よろしくお願いいたします。」の英訳”Thank you.”はDeepLの英訳” Thank you for your cooperation.”に比べるとややカジュアルな表現となっています。
上記はあくまで一例なので、分野によってもどちらの英訳がより自然な表現かは変わってきます。
良い英訳が見つからない場合は、複数の機械翻訳を試してみることをお勧めします。
翻訳会社などが開発・運用する有料の機械翻訳もあります。
無料翻訳との違いは、よく使う表現の登録などを含むカスタマイズができる点と、セキュリティ対策がなされている点です。
有料の機械翻訳では、特定の専門分野に対応した機械翻訳システムもあります。
また、翻訳会社という特性を活かして、プロの翻訳者等による訳文チェックがサービスに付属している場合も見られます。
有料の機械翻訳はコストがかかりますが、翻訳の精度は無料の機械翻訳より高く、後述する「人力翻訳」よりは安価でスピーディーに翻訳できます。
翻訳会社へ依頼して「人力翻訳」、つまりプロの翻訳者などに翻訳してもらう方法があります。
人力翻訳の場合、
ことが可能であるため機械翻訳より翻訳の精度が高くなる一方、時間と費用がかかります。
以下では、機械翻訳を利用するメリットをご説明します。
機械翻訳は瞬時に訳文が出てくるのが最大のメリットでしょう。
たとえば日本語を英語に翻訳したい時、日本語を入力すれば瞬時に英訳が表示されます。
英語話者と対面でコミュニケーションしている時にすぐに英訳を知りたい、または急ぎでeメールの返事を出さなくてはならない時などに便利です。
機械翻訳は無料で利用できるものが複数あります。
また、翻訳会社等が運用する有料の機械翻訳でも、翻訳会社に頼んで有人翻訳してもらう場合に比べて、大幅にコストを抑えられます。
少し前までは、機械翻訳の訳文は決してクオリティが高いとは言えないレベルでした。
たとえば以前のGoogle翻訳を利用した時に、翻訳された日本語や英語の文が意味をなさないこともありました。
このため、機械翻訳は単語やフレーズレベルの訳を調べるといった辞書的な利用が多かったのです。
ところが、過去数年間で機械翻訳のクオリティが格段に向上し、広く活用されるようになってきました。
具体的にどのように翻訳の精度が上がったのでしょうか。
実は機械翻訳のしくみは下表のとおり3種類あって、これらの仕組みの変遷と共に、機械翻訳のクオリティも向上してきました。
【機械翻訳の3つのしくみ】
ルールベース機械翻訳 | 統計的機械翻訳 | ニューラル機械翻訳 | |
略語 | 「RMT」(Rule Based Machine Translation) | SMT(Statistical Base Machine Translation) | NMT(Neural Machine Translation) |
概要 | 文法に基づき翻訳 | コーパスを基に翻訳 | AIを使って翻訳 |
特徴 | ・翻訳データがなくてもOK ・大量のルール登録が必要 ・翻訳の精度が高くない |
・対訳データが必要 ・ルール登録が不要で多言語化が容易 ・語順が異なる言語の翻訳が難しい |
・AIを活用した翻訳 ・Google翻訳も採用 ・訳漏れが発生する可能性 |
1970年代に登場し機械翻訳の中で最も歴史が長い「ルールベース機械翻訳」は、各言語のルールつまり文法に基づき原文を分析し、辞書データを併用しながら訳文を作り出す方法です。
過去の翻訳データがなくても翻訳できるものの、大量のルール登録が必要で開発コストが嵩むのがデメリットです。
またルールに当てはまらない場合は不自然な表現になるなど、翻訳の精度は高くありませんでした。
そこで登場したのが「統計的機械翻訳」。「コーパス」と呼ばれる大量の対訳データをコンピュータで蓄積し、統計的手法を使って翻訳するしくみです。
ルールの登録が不要で、大量の対訳データがあれば多言語化しやすく、翻訳の精度も格段に上がりました。
しかしながら、「統計的機械翻訳」は英語と日本語のように語順が大きく異なる言語同士で翻訳する場合、不自然な訳分になりがちという弱点がありました。
そして2014年、人間の脳神経回路網(neural network)の仕組みをモデルにした「ニューラル機械翻訳」が開発されました。
ニューラルネットワークが自動で学習するアルゴリズムにより翻訳するもので、「AI翻訳」とも呼ばれます。
ニューラル機械翻訳は、文の部分(フレーズなど)ごとでなく、文全体を見て翻訳するため、語順が異なる英語と日本語間の翻訳の精度も向上しました。
「Google翻訳」は、2016年から「ニューラル機械翻訳」を採用し、翻訳の精度が劇的に上がったと言われます。
機械翻訳は安くて時間もかからない上に翻訳の精度も上がったとなれば、活用しない手はないでしょう。
ただし、ニューラル機械翻訳にも弱点があります。
文全体を訳すという性質上、すべての単語やフレーズが訳文に含まれているとは限らず、いわゆる「訳漏れ」が起きることがあります。
一から英文を作るのはなかなかハードルが高い場合でも、機械翻訳の英訳を参考に英文を作れば、かなり時間短縮になります。
機械翻訳では複数の英訳候補が表示される場合もあるので、その中から選んだり、表現を参考にしたりすることができます。
このように、翻訳の精度が向上した機械翻訳は時間もお金もかからず便利ですが、利用する際にはいくつか注意点があります。
機械翻訳は、メールや契約書等に使われる定型文の英訳には強いのですが、定型文以外の文章を英訳する場合は少しコツがあります。
なるべく正確な英訳を得るために、以下の点に気を付けて日本語を入力しましょう。
日本語は英語と違って主語や述語、目的語を省略することが珍しくありません。
機械翻訳では省略された部分まで推測して翻訳することは難しいので、省略せずに書くようにしましょう。
また、一文が長くなると主語と述語があいまいになりやすいため、一文を短くするのがコツです。
日本語は接続詞の前後の因果関係が不明瞭なことがあります。
たとえば、「順接」なのか「逆説」なのかなど、はっきり分かるように書くと良いでしょう。
たとえば、下の文はGoogle翻訳で日本語を英語に翻訳した例です。
「私はかまいませんが、皆さんの意見はいかがですか。」I don’t mind, but what are your opinions?
「私はかまいません。皆さんの意見はいかがですか。」I don’t mind(.) What is your opinion?
一つ目の例では日本語に「私はかまいませんが」と「が」が含まれます。
この「が」に英語の”but”のような逆説の意味はあまりありませんが、英訳には”but”が入っています。
二つ目の例では日本語文から「が」を抜いたところ、英訳から”but”が消えました。
日本語に「が」を使用すると「逆説」を表す英語に翻訳されがちなので注意しましょう。
また固有の言い回しよりも一般的な表現の方が正しい英訳を得やすいですし、文の中で同じことを表す言葉は統一して同じ言葉を使用し、あいまいな表現は避けるなどの工夫が必要です。
前述したとおり、機械翻訳のクオリティは劇的に向上しました。
しかしながら、機械翻訳で得られた訳文をビジネスなどの正式な文書で使えるほどのレベルにはいたっていません。
たとえば、機械翻訳ではローカライズできず、前後の文章から文脈を読み取ったり、英文全体の構成を考慮したりすることができません。
機械翻訳の英訳は「下訳」として補完的に利用し、訳文を人の目でチェックすることが大切です。
ただ、訳文をチェックする際には、チェックする人に「正しくかつ自然な英語表現」のストックがなければ、正しいかどうかチェックしづらいという側面があります。
ビジネスやアカデミックな場面など正式な英文を必要とされる場合は、機械翻訳の利用に慎重になるべきです。
機械翻訳は専門的な内容の文を翻訳することが得意ではなく、固有名詞、業界用語や専門用語を認識せず、正しい英訳を得られないことがあります。
また、書き手や読み手の背景までは考慮できないため、コミュニティや業界によって異なる言葉の使い分けも苦手とするところです。
また、企業理念やブランドイメージの説明、旅館のコンセプトなど、クリエイティブな表現が求められる場合も、機械翻訳の訳は参考にとどめるべきでしょう。
無料の機械翻訳は、セキュリティ対策がなされていないことが多く、機密性のある文書の翻訳には向いていません。
ただし、有料の機械翻訳はセキュリティ対策がなされていることがあるので、よく確認してから利用するようにしましょう。
上述したように、専門的な内容の文章を英文に翻訳する場合、機械翻訳では英訳のクオリティが低くなります。
そこで、日本語で書いた論文などを英語に翻訳したい場合は、コストや時間はかかりますが、翻訳会社に依頼する方がお勧めです。
【機械翻訳と人力翻訳の比較】
機械翻訳 | 人力翻訳 | |
コスト | 〇 | △ |
迅速性 | 〇 | △ |
正確さ | △ | 〇 |
専門的な内容への対応 | △ | 〇 |
ローカライズ | △ | 〇 |
ただし、日本語の論文を翻訳会社に英訳してもらうことにもデメリットがあります。
翻訳会社に依頼した場合、1文字いくらという形で料金が課されることが多く、機械翻訳より大分コストがかかります。専門的な内容の場合はいっそう料金が高くなりがちです。
もし時間的な理由ではなく、自力では英文を書けないからという理由で翻訳会社に依頼する場合は、英訳を受け取った際に、自分の言いたいことがきちんと英語に反映されているか、また英訳に間違いがないかなどについて、十分に確認できません。
翻訳された英文は今後英文を書く際の参考にはなりますが、自分で英文を書いたわけではないため、英文を書く練習にはなりません。
一から翻訳してもらうわけですから、自分の言葉で伝えられないというデメリットもあります。
そこで、英語論文は翻訳してもらうのではなく、自分で英文を書いて添削してもらうのもお勧めです。
論文を書くたびに毎回翻訳会社に依頼して英訳してもらえば高額な料金がかかりますが、英文添削を外注するのは翻訳に比べるとコストがかかりません。
英文を自力で書いて添削してもらうことで、ライティング力が身に付きます。
自分の間違いの癖が分かり、よりふさわしい表現や代替表現を学ぶことができるため英語表現のストックが増えていきます。
また、一文ごとの英文だけでなく、英語論文全体の構成を見てもらえることで、長い英語論文をどのように構成したら良いかも学べます。
英語論文の添削を依頼する場合は、英文添削業者の選び方も大切です。
会社ごとに得意な専門分野が異なり、その専門分野ごとに専門知識を持ち経験のある校正者がいるからです。
校正者の経歴等がウェブサイトに掲載されていることもあるので、それらをチェックして最適な英文添削業者を選ぶことをお勧めします。
精度が上がった機械翻訳は無料のものも多く、英文を書くに当たって活用しない手はありません。
ただデメリットもあるので、翻訳する目的と予算に応じて、適切な手段を選ぶことが大切です。
この記事では、日本語を英語に翻訳するには機械翻訳と人力翻訳があること、機械翻訳は安価で時間がかからず、翻訳の精度も向上している一方で、利用する際には注意すべき点があることをお話しました。
英語の論文を作成するには、日本語で書いた論文を英語に翻訳してもらう方法と、自分で書いた英語論文を添削してもらう方法があります。
翻訳してもらう場合、論文は専門的な内容が多いので、機械翻訳ではなく人力翻訳が適しています。
また、ライティング力を磨いて自分の言葉で伝えるためには、翻訳ではなく英文添削を選ぶのがお勧めです。
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